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この本は大学生のときに京都駅前にあったプラッツ近鉄の旭屋書店で買った。 「宮脇檀といったら『最後の昼餐』」と建築の先生が教えてくれて、すぐに在庫確認の電話をいれた。 今でもはっきりと覚えている出会いだった。 * 宮脇檀(“まゆみ”と読む)は、とことん住まいを愛する建築家だった。 理屈と美しさを両立させるためのデザイン。それを施した住宅作品の数々。かっこいいことに徹底してこだわる人だった。 娘でエッセイストの宮脇彩は、父についてこう話している。 例えばラジカセが欲しいと言えば、目的や値段を聞いてくるのが普通だと思いますが、 父は一言、「それ、かっこいいの?」。 安くても優れていても、かっこよくないものは買ってもらえませんでした。 そういった姿勢が住宅設計にも注がれた。 図面も事務所の所員に描かせたくなかったらしい。時間が許すならば、全部を、細部まで、自分の精神をめぐらせたかったのかもしれない。 一方、宮脇檀は多くの著書も残した。 建築に携わる人はもちろん、建築を知らない一般の人にもわかりやすく、そしておもしろく「より良い生活」について教えてくれた。皮肉まじりの辛らつな表現も、なんだか気持ちよく愉快。 今回紹介する『最後の昼餐』はそれらの本ともまた違った一冊である。 走り続けてきた日々も、定年を迎えるにあたり、歳相応のリズムに変えていこうと思いたった。土曜、日曜はしっかりと休み、自分の好きなことを存分に楽しむ。それは、使い勝手の良いキッチンで美味い料理を作り、心を許せる仲間と一緒に味わうことだった。 マンションの一室に手を加えて理想のキッチンを完成させ、キッチンに続く屋外テラスは小さな菜園とした。 そこで送る日々がガールフレンドによる料理の絵(と川柳)と宮脇檀のエッセイでつづられている。 元々料理が好きで、食べることが好きだったこともあって、理想の環境で送る生活が楽しくて仕方がなかったようだ。目にも鮮やかな彩りあふれる記録がうらやましくもあり、途方もなくかっこいい。 ある日突然の癌宣告。入退院の日々。 食へのこだわりがよりいっそう冴えわたっていく。 最後の昼餐“であっても良い”と本気で思える、晴れ渡る四月の食事風景でこの本は終わる。 ● 最後の昼餐 宮脇檀 新潮社 1997年初版発行 絶版 一番好きな本は?と聞かれれば、この本をあげます。
by suiran-books
| 2011-10-06 09:51
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